退職金制度の見直しと中小企業の問題解決

裁判事例 その5

会社から不祥事の疑義をかけられ、やむなく自己都合退職した場合でも、自己都合退職となるのか?

出入り業者との不祥事を疑われ、退職届を提出して退職した場合において、不祥事の嫌疑が不法行為と認められ、退職を余儀なくされたものとして、病院の都合による解雇に準ずるものとされた事例

<平成6.3.7 東京地裁判決 K病院事件>

判決の要点
{事件の概要}

原告は被告病院の人工透析室の技師長であったが、病院側から、機器の不正購入、資材の無駄遣い、病院に不満を持つ職員を煽動したなどの無実の疑いをかけられ、退職届を提出して退職したところ、病院は、懲戒解雇事由があるとして退職金を不支給とした

 

{病院の不法行為の認定、懲戒解雇事由の不存在及び退職金請求権の存在}

1.被告病院は、故意又は過失により原告について事実に反する出入り業者との不祥事を疑うなどして、原告を退職に至らせたものであり、その一連の行為は不法行為(民法709条)に該当するというべきである。

 

2.そして、原告には被告病院主張のような懲戒解雇に相当するような事由は見当たらない。
ところで、被告病院の就業規則、退職金規程では、懲戒解雇事由に併せ、懲戒解雇された者及び退職又は解雇後に懲戒解雇に相当する事由が発見された者についての支給制限を定めているが、原告の在職中の行為については、懲戒解雇事由に該当する事実は存しないから、退職金規程に基づき退職金請求権を有することとなる。

 

{退職を余儀なくされた場合の「会社都合による解雇」規定の類推適用}

原告は、被告病院の一連の不法行為により退職を余儀なくされたものであり、退職事由別係数は「自己都合」ではなく、「病院の都合による解雇のとき」に準ずるものとして、この規定を類推適用するのが相当である。
もっとも、退職届けには退職事由として、「一身上の都合」と記載されているが、これは退職願のいわば決まり文句であって、この記載があるからといって、原告の退職を自己都合によるものと認めるべきものではない。
そして、この後に被告会社が原告を懲戒解雇する余地はないものというべきであるから、原告を懲戒解雇したことを理由に退職金請求権は発生しないとする被告会社の主張は理由がない。