退職金制度の見直しと中小企業の問題解決

所定の昇給要件を充足した場合でも、使用者の裁量により昇給を保留できるのか

昇給の要件が限定列挙され、過去に要件充足者の昇給保留がなかったことから、使用者において昇給要件の欠格を証明しない限り、昇給させるべき債務を負っているとされた事例

<昭和59.7.18 大阪地裁判決 社会福祉法人大阪G館事件>

給与規定の昇給条項

被告法人の就業規則付属給与規定22条は、
基本給の昇給は別に定める給与等級表により行う。定期の昇給に要する経過期間は1年とし、昇給の調査は1月、4月、7月、10月と就業年月日により区分して行う。
(注:経過期間とは、前回昇給又は就業年月日により当該昇給の調査までとし、昇給の調査とは昇級資格の有無を調査すること)と規定していること、
同規定24条は、
次の場合昇級を保留することがある、
 @ 1年のうち3ヶ月以上欠勤したとき
 A 技能著しく不良もしくは勤務怠慢、または素行不良の者
と規定していることは当事者間に争いがない。

 

過去の定期昇給保留者の存否

そして、被告は昭和55年度までは給与規定22条に基づき、昇級時から1年を経過した職員につき、毎年度欠かさず定期昇給を実施してきたこと、少なくとも被告に勤務した53年11月以降において、給与規定24条に該当するとして定期昇給を保留された者がいなかったことが認められる。

 

使用者の昇級の意思表示の必要性

以上の真実を前提として給与規定を解釈すれば、被告がある職員を昇級させるときには当該職員について昇給に必要な期間を経過したか否か、同規定24条の欠格事由に該当するか否かを調査し、その調査の結果、被告が当該職員を昇給させるべきものと判断したときは、被告から職員に対し昇給させる旨の意思表示をすることにより、当該職員について昇給するものと解すべきである。
なお、昇給辞令の交付はないが、給与明細書に昇給した賃金を記載して支給することにより、職員に対する昇給の意思表示をしているものと解される。
したがって、給与規定22条の規定が、その経過期間を経過した原告らに対し何らの意思表示を要することなく、当然に被告が定めた給与等級表の各一つ上の等級の基本給に昇給するとの原告の主張についてはその余の判断に及ぶまでもなく、理由がない。

 

昇給欠格事由の不立証と昇給させる債務

しかし、給与規定22条に定める昇給資格は、@前回の昇級時から1年を経過したことA給与規定24条に該当しないこと、の2点であり、これと、給与規定24条はその性質上限定的列挙と解されること、しかも@の要件及び給与規定24条1号の規定に該当するか否かは当事者双方にとって判断する上で疑義がないこと、
並びに昭和55年以前の定期昇給の実態に鑑みれば、原告(職員)側において@の要件があるときは、被告はAの要件を主張・立証しない限り、原告らに対し、給与規定に基づき同規定引用の給与等級表の一つ上の等級に昇格させるべき債務を負っているものと解するのが相当である。