退職金制度の見直しと中小企業の問題解決

経営不振により所定の昇級が実施されずに経過した場合、黙示の承認が認められるのか

給与規定施行後の業績悪化により、所定の昇給、賞与の支給が行われなくなり、従業員全員が経営状態を知って何らの要求をしないで経過した場合、給与規定の不実施について黙示の承諾が認められた事例

<平成9.3.25 東京地裁判決 N商店事件>

給与規定制定後その不実施の経過

本件給与・退職金規定は、被告商店の現代表者の亡夫の亡父が代表者の時代に制定・施行したものであるが、当時は繁盛しており規定どおりの昇給や賞与の支給が可能であったが、その後の業績の悪化、とりわけ手形不渡り事故の発生の危機の直面して以降、規定どおりの昇給や賞与の支給が困難となり、その状況は改善されないまま現代表者の夫が平成5年7月に脳梗塞で倒れ、同年11月に退任し、この後を同代表者の妻である現代表者が引き継いで以降は、規定どおりの昇給は勿論、賞与の支給も0.1ないし0.3か月分程度に止まっており、また、同代表者は、本件給与・退職金規定の存在すら原告との本件紛争の発生まで知らなかった。
他方、原告を含めた従業員全員は、被告商店がこのような営業状態にあったことから、被告の上述のような措置に対して、規定どおりの昇給の実施及び賞与の支給を要求したことはなかった。

 

給与規定不実施の事実経過による黙示の承諾の認定

上述認定事実によると、本件給与・退職金規定施行当時は盛業状況にあって、規定どおりの昇給・賞与の支給も可能であったが、その後の業績悪化、とりわけ、昭和56年11月20日の手形不渡り事故発生の危機に直面して以降の業績は悪化の一途を辿り、規定どおりの昇給・賞与支給が困難な状況となり、改善されないまま現代表者が経営を引き継いだ以降は昇給は全く実施されず、賞与も僅かの支給に止まっており、従業員は、この被告の経営状況を知っていたためと考えられるが、被告のこれらの措置に対し何らの要求もしなかったのである。
そうすると、原告を含めた従業員全員は、被告が規定どおりの昇給を実施しないこと及び賞与の支給をしないことを暗黙のうちに承認していた、すなわち、黙示の承諾をしていたということができる。